2025.10.16

米国籍離脱と未申告者向け救済手続きRelief Proceduresを徹底解説

米国籍離脱と未申告者向け救済手続きRelief Proceduresを徹底解説
目次

    こんにちは。米国公認会計士(CPA)&ファイナンシャルプランナーのトクとく子です。今日は、最近お問い合わせの多い、日本とアメリカ二重国籍をお持ちの方の、アメリカ国籍離脱に伴う米国の税務申告義務についてお話しします。

    米国籍離脱と税務申告義務

    米国籍離脱(Renunciation of U.S. Citizenship)は、単にパスポートを返上するだけの手続きではありません。アメリカは世界でも珍しい「市民権ベース課税(citizenship-based taxation)」を採用しており、国外に住んでいても米国籍を持つ限り毎年の所得税申告(Form 1040)が義務となります。

    救済手続きの概要

    日本で長く暮らしている日米二重国籍者や、アメリカで生まれただけの「Accidental American(偶発的アメリカ人)」の中には、この義務を知らずに長年申告をしていない人が少なくありません。そうした人々のために、IRS(アメリカ内国歳入庁)が特別に設けた救済制度が「Relief Procedures for Certain Former Citizens (Relief Procedure)」です。

    このRelief Procedureは、過去に申告していなかったものの、悪意なく義務を知らなかった元米国籍者を救済するための制度です。対象となる人がこのプログラムを利用すれば、過去の未申告分について追徴課税やペナルティを免除される可能性があります。

    Relief Procedureの適用条件:救済策Relief Programを利用できる人とは?

    Relief Procedureを利用するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

    1. 2010318日以降に米国籍を離脱
    2. 過去にIRSへ申告したことがない
    3. 離脱時点のご本人名義の全世界の純資産が200万ドル未満
    4. 過去5年間+離脱年の税額の合計が25,000ドル以下
    5. 申告義務を怠った理由が「意図的ではない」

    この25,000ドルという金額は、6年間分の合計税額であり、年間あたりに換算するとおおよそ4,000ドル前後の税額に相当します。つまり、おおよその目安として各種控除を適用した後の課税所得が毎年約35,000ドル以下(※1)の人であれば、ほとんどの場合この条件を満たすと考えられます。

    ※1: 控除額や税率は毎年異なるため、該当する年ごとにこの数字は変動します。(参考:単身者・夫婦別申告の標準控除額:14,600ドル(2024年)、15,750ドル(2025年))

    提出が必要な書類

    申請時には、IRSに一括で複数の書類を提出します。具体的には以下の書類が必要です。

    • 離脱年前の過去5年分のForm 1040(所得税申告書)
    • 離脱年のDual Status の申告書(Form 1040および1040NR
    • FBAR(外国口座報告)合計6年分(過去5年分+離脱年)(※2)
    • Form 8854Expatriation Statement
    • Non-willful(非故意)のCertification Statement(宣誓書)
    • 米国籍喪失証明書(Form DS-4083 Certificate of Loss of Nationality (CLN) of the United States)
    • 有効なパスポートのコピー(または出生証明書)

    ※2: FinCENに電子にて提出するためIRSへ郵送は不要です。

    特にForm 8854は離脱時の資産や所得を報告する重要な書類で、ここに誤りがあると救済の適用を受けられない可能性があるため注意が必要です。

    提出時期と方法

    Relief Procedureに提出期限はありません。 申告の遅延を是正するための手続きであり、任意の時期に提出します。Form 8854の通常の提出期限は「離脱年の翌年の415日(または延長後の期限)」ですが、この救済手続きはその期限を過ぎた後でも利用できます。申告は電子提出ではなく印刷した書類をIRS(内国歳入庁、日本の国税庁に相当)に郵送します。

    注意点と実務上のポイント

    このプログラムは原則として一度きりの申請しか認められず、条件を満たしていなかった場合の再提出はできません。

    もし条件を満たさず救済措置の対象外となる場合でも、過去5年分の申告と離脱年のDual Statusの申告及びForm 8854の提出は必要です。通常の過去申告を行う場合、納税額に対して遅延料(ペナルティーと遅延利息)が加算されます。その場合の対応策としてはStreamlined Foreign Offshore Procedureがあります。

    Streamlined Foreign Offshore Procedureについてはこちらのコラムを参照して下さい。)

    まとめ

    米国籍離脱は人生の大きな決断です。その手続きが終わっても、税務上の義務を放置すると、後になって予期せぬ問題を招くことがあります。Relief Procedureは、そうした人たちが「知らなかった」という理由で不利益を受けないように設計された制度です。自分が対象となるかどうかを早期に確認されることをお勧めしますが、ご不安な場合は専門家への相談をご検討ください。

    弊社では、国籍離脱に伴う米国税務の対応をしています。世界最大手会計事務所での勤務経験を持つ米国公認会計士(USCPA)が、少人数チームならではの柔軟性で複雑な国際税務を迅速かつ丁寧にサポートします。ご自身の状況に合わせた最適なご提案をいたしますので、ぜひ一度ご相談ください。

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