2025.05.29

米国籍離脱・永住権放棄をする前に知っておきたい提出書類「Form 8854」  

米国籍離脱・永住権放棄をする前に知っておきたい提出書類「Form 8854」   
目次

    こんにちは。「米ドル資産運用のコンシェルジュ」米国公認会計士 (CPA) &ファイナンシャルプランナーのトクとく子です。

    今日は、日本在住の米国籍保持者または米国永住権(グリーンカード)保持者の皆様へ、米国籍離脱や永住権放棄にあたって提出が必要な「Form 8854」についてお話します。この手続きを誤ると、思わぬ課税やペナルティに直面する可能性があります。安心して手続きを進めるために、ぜひ最後までお読みください。

     

    Form 8854とは?提出対象者

    Form 8854 Initial and Annual Expatriation Statement(初回および年次国外離脱申告書)」とは、米国籍離脱する人または長期永住権保持者(Long-Term Resident)に該当する米国永住権を放棄する人が、「米国納税義務を終了する意思」と離脱・放棄前の5年間における納税義務の遵守の証明をするための書類です。

    長期永住権保持者とは、過去15年間のうち8年以上グリーンカードを保持していた人を指します。ただし、日本のように米国との租税条約がある国に居住していた期間は含めません。これに該当する場合は、Form 8854の提出が義務付けられます。

     

    Covered Expatriate(対象出国者)」の判定

    以下のいずれかに該当すると「Covered Expatriate(対象出国者)」となります。

    • 純資産が2百万ドル以上
    • 過去5年間の平均年間所得税額が201,000ドル超(2024年の場合)
    • 過去5年間の連邦税務申告(Form 1040など)不履行

    Covered Expatriateに該当すると、Expatriation Tax (Exit Tax)(出国税)と呼ばれる非常に重い税金が課される可能性があります。これは、保有する全ての資産(全世界資産)を離脱時に売却したかのようにみなされ、その利益に課税されるDeemed Sale(みなし売却)に基づく税が課されるというものです。

     

    二重国籍者・特定の未成年者に対する例外

    以下の条件を満たす二重国籍者や未成年者は、純資産や所得税額が基準を超えていても、自動的にはCovered Expatriateとはみなされず、出国税の対象になりません。ただし、Form 8854を提出し、過去5年間の連邦税務義務を遵守したことを証明しない限り、Covered Expatriateとみなされます。

    二重国籍者の条件:

    1. 出生時から米国ともう一つの国の国籍を有しており、離脱時もその外国籍を保持し、居住国として課税されていること
    2. 離脱までの直近15年間のうち、米国での居住が10年以下であること(居住判定には「実質的滞在テスト」を適用)

    未成年者の条件:

    1. 18歳半になる前に国外離脱をしたこと
    2. 国外離脱までに米国で居住していた期間が10課税年以下であること(居住の判断には「実質的滞在テスト」を適用)

     

    Expatriation Tax (Exit Tax)(出国税)

    Expatriation Tax (Exit Tax)とは、離脱時に保有している全世界資産を売却したと仮定して課される税金です。居住地に関係なく、米国市民権や永住権を放棄する人全員が対象です。
    2025
    年では、売却益のうち890,000ドルを超える部分に対して、長期キャピタルゲイン税率が適用されます。この金額はインフレ調整により毎年変動します。

    なお、Deferred Compensation401(k)など)や信託、特定口座(例:IRAHSAなど)は異なる取り扱いがされ、追加の報告や源泉徴収が必要になります。

     

    提出時期と必要書類

    Form 8854は、米国籍離脱または永住権放棄を行った年の翌年の所得税申告期限(通常は415日、米国外居住者は615日、延長申請可)までに提出する必要があります。Form 1040Dual-Status Return)と合わせてIRSに提出します。また、外国金融資産が報告基準額以上ある場合は、Form FinCEN 114 (FBAR)Form 8938 (FATCA)の提出も必要になります。(FBARおよびFATCAについてはこちらのコラムをご参照ください。)

     

    提出しない場合のペナルティと影響

    Form 8854を提出しなかったり、不備があったりすると、$10,000ドルのペナルティが課せられます。ただし、それが合理的な理由によるもので、故意ではないと示すことで免除される可能性があります。また、提出しない場合は自動的に「Covered Expatriate」と見なされ、出国税の対象となる可能性があります。
    また、正しく納税義務を終了したと見なされず、米国外に住んでいてもIRSからの通知が届く可能性が継続します。

     

    まとめ

    Form 8854は、米国での納税義務を法的に、そして確実に終了させるための、まさに「最後の砦」とも言える重要なステップです。その提出には、専門的な知識と正確な情報に基づいた準備が不可欠です。もし、この手続きに不安を感じるようでしたら、経験豊富な専門家にご相談いただくことをお勧めします。

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